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NY証券取引所スピーチ

9/25/2013

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NY証券取引所 安倍晋三内閣総理大臣スピーチ
2013年9月25日(水)
於:NY証券取引所

 本日は、このような機会を与えていただき、感謝しています。

 世界経済を動かす「ウォール街」。この名前を聞くきますと、マイケル・ダグラス演じるゴードン・ゲッコーを思い出します。

 1987年の第一作では、「日経平均(Nikkei Index)」という言葉が出てきます。日本のビジネスマンも登場し、日本経済がジャガーノートであるかに思われていた時代を彷彿とさせるものでした。

 しかし、2010年の第二作では、出てくる投資家は中国人、ゴードンが財をなすのはウォール街ではなくてロンドン。日本はその不在においてのみ目立ちます。「Money never sleeps」のタイトルさながらに、お金は儲かるところに流れる、その原理は極めてシビアです。

 たしかに、日本はバブルが崩壊した後、90年代から20年近くデフレに苦しみ、そして、経済は低迷してきました。しかし、今日は皆さんに「日本がもう一度儲かる国になる」、23年の時を経てゴードンが金融界にカムバックしたように、「Japan is back」だということをお話しするためにやってきました。

 さて、明日はマリアノ・リベラ投手にとって、ヤンキースタジアムでの最終試合です。ニューヨーク市民にとって、永遠に記憶に残るこの日に、同じ場所で時間を共有できることは大変幸せなことです。

 切れのするどいカットボール。43歳になる今でも、あの一球を投げこめばどんなバッターも手が出ない。世界一のクローザーとはそういうものなのだと思います。

 日本が復活するシナリオも、奇を衒う必要はまったくありません。リベラのカットボールのように、日本が本来持つポテンシャルを、思う存分発揮しさえすれば復活できる。そう考えています。

 身近なものからご説明しましょう。寿司です。ニューヨークには本格的な寿司バーがたくさんあります。

 コメと寿司ネタ、わさびとしょうゆ、そして日本酒の絶妙なコンビネーションを体験した方もいらっしゃるでしょう。全部があわさって素晴らしいハーモニーが生まれる。どれかが欠けても物足りない。日本食は、繊細な「システム」です。

 私は、月に一度は海外に出かけます。出来る限り日本のビジネスリーダーたちを連れ、日本のポテンシャルを売り込んでいます。会合には日本食を用意し実際に皆さんに食べてもらっていますが、寿司も、てんぷらも、カウンターはいつも大行列です。

 実は、そもそも寿司もてんぷらも200年以上前、今の東京である江戸の庶民たちが道端の屋台で食べていたファーストフードが発症なのです。私はここニューヨークでもいつか、40丁目と5番街の交差点にあるホットドッグ屋台の隣に、寿司やてんぷらの屋台が並ぶ日を夢見ています。

 日本の鉄道も世界に誇る「システム」です。「新幹線」は、時速205マイルのハイスピードで駆け抜けますが、静かで快適。そして1964年10月開業以来、運行サービスにおいて、死亡者はおろか、けが人を一人も出したことがない安全性の高さで、世界中から引き合いがあります。

 日本の新幹線のその次には、超電導リニア技術による新しい鉄道システムがあります。すでに日本国内では、世界最高の時速311マイルで乗客を乗せて走る実験を重ねています。

 この技術を活用すれば、ニューヨークとワシントンDCは1時間以内で結ばれます。毎年44万3千ガロンもの「ガソリン」を浪費させるだけでなく、68万2千もの「時間」を浪費して皆さんをイライラさせる、あの「道路渋滞」からも解放されます。飛行機や自動車と比べて時間もCO2もカットできる。まさに「夢の技術」です。

 日本では、今、東京と名古屋間で開業に向けた準備が進んでいます。その前に、まずは、ボルチモアとワシントンDCをつないでしまいましょう。私から、すでにオバマ大統領にも提案しています。

 皆さんは、シェールガス・シェールオイルで強い経済力を持ち、さらに化石燃料が安くなるラッキーな国にお住みです。日本はそうはいきません。そうはいかないからこそイノベーションです。

 日本のエネルギー効率は、第四次中東戦争が発生した1973年と比べ、約40%改善しました。GDP千ドルあたりのエネルギー消費は、石油換算で、アメリカでは0.17トンですが日本では0.11トンしかありません。中国は0.6トンですから、日本の省エネ技術の高さは群を抜いています。ここに日本の成長機会があり、皆さんの投資機会があります。

 自動車向けのリチウムイオン電池は世界の7割が日本製です。アメリカで人気のテスラモーターの電気自動車も電池は日本製。次世代の自動車は、「インテル・インサイド」ならぬ、「ジャパン・インサイド」なんです。

 高い効率を誇る日本のLED照明。白熱電球と比べ、電力消費は5分の1以下です。

 ある試算によれば、65億個にのぼる世界の白熱電球需要を、すべて日本のLED電球に置き換えれば、最新の原発200基分以上の省エネとなります。

 そして日本は原発の安全技術で、これからも世界に貢献していきます。放棄することはありません。福島の事故を乗り越えて、世界最高水準の安全性で世界に貢献していく責務があると考えます。

 その福島の海では、未来の発電技術が開花しようとしています。「浮体式」の洋上風力発電技術です。現在、2メガワットクラスのものしか世界には存在しません。

 日本のエネルギー技術は、ポテンシャルの塊です。だからこそ、私は電力システム改革を進めます。こうしたダイナミックなイノベーションをもっと加速していくために、電力自由化を成し遂げて日本のエネルギー市場を大胆に転換していきます。

 新たなチャレンジにはさまざまな規制が立ちはだかります。例えば燃料電池の開発実証には、多くの規制をクリアしなければならない。これでは創意工夫はできません。

 私はフロンティア技術を実証したい企業には、独自に安全を確保する措置を講ずれば、規制をゼロにする新しい仕組みをつくろうと考えています。

 規制改革こそが、すべての突破口になると考えているからです。

 「本当に改革ができるのか?」と懐疑的な方もいるかもしれません。たしかに日本は、この数年間「決められない政治」の代表でありました。

 しかし、この7月、日本国民は大きな選択をしました。「決められない政治」を生み出してきた、衆議院・参議院間の「ねじれ」を解消する選択です。

 私が率いる連立与党が、衆参両院で多数を取りました。政権与党のリーダーとして、私は必ずや、言ったことを実行していきます。

 「実行なくして成長なし」。アクションこそが私の成長戦略です。

 私が日本を出発する前に、ある野球記録が塗り替えられました。1964年に王貞治という選手が作ったシーズン55本のホームラン記録が、カリブ海出身のバレンティン選手によって更新されたのです。

 ここニューヨークではイチロー選手が、日米4000本安打という偉大な記録をつくりました。日本で海外の選手が活躍し、米国で日本の選手が活躍する。もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました。

 世界の成長センターであるアジア・太平洋。その中にあって、日本とアメリカは、自由、基本的人権、法の支配といった価値観を共有し、共に経済発展してきました。

 その両国がTPPをつくるのは歴史の必然です。

 年内の交渉妥結に向けて、日米でリードしていかなければなりません。

 自由で創造力に満ち溢れる大きな市場を、米国とともにこのアジア・太平洋に築き上げたい。私はそう考えています。

 さて私はハフィントン・ポストのブロガーもつとめております。アリアナ・ハフィントンさんには明日もまたお目にかかる予定ですが、ストレートな語り口は彼女の魅力です。

 そのアリアナさんがかつてこう語ったそうです。「もし、リーマンブラザーズが、リーマンブラザーズ&シスターズだったら、今も存続していたのではないか。」と。

 男たちは「睡眠時間が少ないことを自慢」し、「超多忙なことが超生産的だ」と誤解している。そのような男たちは行く先で待ち構える「氷山」を見過ごしがちだ、と彼女は言うのです。

 私も男たちの一人として、また総理就任以来休む暇なく働いてきた者として、この言葉が身に沁みます。この夏はハフィントンさんの言葉を胸に刻んで、しっかり休暇をとりました。

 いずれにせよ、日本の中に眠っているもう一つの大きなポテンシャル。それは女性の力です。

 ここニューヨーク証券取引所の初の女性会員は、ミュリエル・シーバートさんです。46年前の出来事でありました。ミッキーの言葉が頭をよぎります。

 「アメリカの経済界は女性役員こそが、人口の半分の男だけに頼っている日本やドイツに対抗する上で、強力な競争力向上の武器になることを気づくだろう」

 まさにその言葉を身を持って証明し、アメリカにおける女性の活躍をリードしてきたミッキーが、先月お亡くなりになったと聞きました。ご冥福をお祈りするとともに、これまでのパイオニアとしての活躍に深い敬意を表したいと思います。

 そして「人口の半分の男だけに頼ったせいで」閉塞感に直面している日本を、私は大きく転換してまいります。

 日本にはまだまだ高い能力を持ちながら、結婚や出産を機に仕事を辞める女性がたくさんいます。こうした女性たちが立ちあがれば、日本は力強く成長できる。そう信じます。

 そのために日本から「待機児童」という言葉を一掃します。2年間で20万人分、5年間で40万人分の保育の受け皿を一気に整備します。すでにこの夏の時点で、12万人分を整備する目途がつきました。繰り返しになりますが、アクションこそアベノミクスです。

 足元の日本経済は極めて好調です。私が政権をとる前の昨年7-9月期にマイナス成長であった日本経済は、今年に入って二期連続で年率3%以上のプラス成長となりました。これは大胆な金融緩和による単なる金融現象ではありません。生産も、消費も、そしてようやく設備投資もプラスになってきました。長いデフレで縮こまっていた企業のマインドは確実に変わってきています。

 ここで成長戦略を実行し、先ほど述べた様々なポテンシャルを開花させていけば、日本を再び安定的な成長軌道に乗せることができる。これが私の「三本の矢」政策の基本的な考え方です。

 日本に帰ったら、直ちに成長戦略の次なる矢を放ちます。投資を喚起するため大胆な減税を断行します。

 世界第三位の経済大国である日本が復活する。これは間違いなく、世界経済回復の大きなけん引役となります。日本はアメリカからたくさんの製品を輸入しています。日本の消費回復は確実にアメリカの輸出増大に寄与する。そのことを申し上げておきたいと思います。

 ゴードン・ゲッコー風に申し上げれば、世界経済回復のためには、3語で十分です。

 「Buy my Abenomics」

 ウォール街の皆様は常に世界の半歩先を行く。ですから今がチャンスです。

 先日サンクトペテルブルグで、オバマ大統領からエールをもらい、その後23時間かけてブエノスアイレスに飛びました。その結果、2020年のオリンピック・パラリンピックが東京で開催されることとなりました。

 49年前の東京オリンピックは日本に高度成長時代をもたらしました。日本は再び7年後に向けて、大いなる高揚感の中にあります。あたかもそれはヤンキースタジアムに、メタリカの「Enter Sandman」が鳴り響くがごとくです。もう結果は明らかです。

 偉大なるクローザー、リベラ投手の長年の活躍に最大の敬意を表しつつ、私のスピーチをおわりたいと思います。